二字No.02星屑


艦内時間の夜も更けた頃。イメージルームの中に寝転がった男三人。あたりは満天の星空である。

「宇宙で星空の中を飛んでるってのに、なんでだか、星空を見たくなるんだよな。」
加藤がしみじみという様子で言った。
「まったくですね。炎を上げている恒星を目の当たりにするってのも迫力満点でいいものですけど、やっぱり、宝石を撒き散らしたような空を地上から眺めるのが一番ですね。」
南部も同調した。
「人類がまだ空を飛ぶことができなかった頃から星空に憧れた、そんな思いが遺伝子に刷り込まれているのかもな。」
と、山本。
「星への憧れから、人類は進歩してきたのですよねえ。天文学、物理、工学技術。文学もそうですね。日本には星を使った言葉がいっぱいあります。星霜、星影、星屑、星月夜。」
南部が言った。
「音楽だって、ジャンルを問わずいろいろあるぞ。」
と、山本。

「これでたっぷり湯を張った風呂にゆっくり入れたら、言うことないなあ。」
星にまつわる芸術談義をする山本と南部の横で、黙って星空を眺めていた加藤。ぐーっと大きな伸びをした。

「だって、そうは思わんか。日本人にとっては最高の癒しだぜ。」
加藤は言った。しかし宇宙航行中には望めない贅沢である。
「まったくお前らしいよ。まあ、温泉で星空を見上げるなんぞ乙なもんだけど。」
山本が苦笑した。しかし露天風呂は、今では地上でも望めない贅沢である。

「露天風呂は無理としても、昔、弟が、『バスプラネタリウム』というのを見つけてきたんだが、あれはなかなかよかったぜ。風呂場を真っ暗にして、星空を眺めながら、ひとっ風呂というわけさ。」
と、加藤が言った。
「バスプラネタリウムねえ。加藤の弟って、確かまだ訓練学校に入ったばかりだったよな。そういうものを見つけてくるなんて、お前の弟にしちゃ、なかなかおしゃれじゃないか。」
山本が笑った。

「星空の風呂を楽しむなら、いいものがありますよ。『黄金の星屑』という入浴剤があるんです。金箔入りの入浴剤で、風呂に入れると、金箔が浮く、沈む、浮遊するで、ほんとに星空の中にいるような気分になれますよ。帰還したらぜひ試してください。」
と、南部。
「そりゃいいな。ちょっとゴージャスな気分になれるだろうな。」
山本が頷いた。
「ええ、それに金は体にいいそうですよ。純金の出す微電流は人間の持つ電流とほぼ同じなので、体内イオンと結合し血行がよくなり新陳代謝を高める働きがあるといわれているらしいです。」
星にまつわる芸術談義のはずが、いつの間にか風呂談義になってしまっているが、それに気がつかない南部と山本。

「ゴージャスな気分の入浴を楽しむなら、バラ風呂がいいぜ。」
「はあ?」
加藤の口から、バラ風呂などという思いがけぬ単語を聞いて、山本と南部は驚いた。
「バラの花を50輪とか100輪とか浴槽に浮かべて、それに浸かるってやつさ。」
そんなことも知らないのかと言わんばかりの加藤。それはわかるけど、加藤とバラ風呂とがつながらない南部と山本。
「四郎の奴に女が喜びそうなものを注文しておいてくれって頼んだら、選びやがったんだ。でもそんなもん、恥ずかしくて贈れやしないだろ。で、もったいなからうちの風呂に入れたのさ。色とりどりで香りもいいし、まあまあだったぜ。」
バラの花にはすぐれた美肌効果があるらしい。風呂一面にバラを浮かべてうっとりしている加藤はあまり想像したくない南部と山本である。しかし癒しは大事。それは三人一致の加藤、山本、南部なのであった。

26 Apr. 2010

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