二字No.03氷雪


「真田さん、何ですか。それ。」

ここはイカルス。真田の研究室。何やら機械を作成中である。
「お、加藤か。これは氷雪製造装置だ。澪に、雪や氷がどんなものか見せてやろうと思ってな。」
「へえ、それはいいですね。澪ちゃん、喜びますよ。」
加藤四郎は、子供の頃の冬の光景を思い出した。きんと冷えた朝、軒下で見つけた氷柱。地面の水溜りが凍っていて、そっと乗っかったら、みしっと割れたこと。そして目が覚めると一面の銀世界になっていた朝。二郎兄さんが雪だるまを作ってくれて、三郎兄さんは、雪合戦の隊長で…。

「さあ、できたぞ。澪を呼んできてくれ。」
真田は氷雪製造装置をオンにした。研究室の天井から雪が舞い、床をうっすらと覆い始めた。

「さあ、いいか。澪。よく見るんだぞ。雪というのは……」

雲に含まれた水蒸気が、大気中の微粒子を核として氷の結晶となる。これを氷晶という。氷晶が落下する際、周囲の温度が0度以上になることなく地上に到達すると、雪として観測される。0度以上だと氷晶は融けはじめ、完全に溶けると雨になる。氷晶の一部が融けて、雪と雨のかじりあった状態のものが霙。氷晶に水滴が付いて凍結したものが霰。霰が大きくなって5ミリ以上になると雹。雪の結晶は云々侃々…。
次々といろいろな種類の雪を出現させ、真剣に語る真田。真剣に耳を傾ける澪。何か違うと頭を抱える四郎。

四郎は床を覆った雪をすくい、雪玉を作って真田めがけて放った。
「澪ちゃん、雪ってのはこうするんだよ。」
「待て、加藤。まだ氷の講義が終わってい…」
真田の言葉は飛んできた雪玉の中に消えた。
「氷は後で教えます。」

その日の夜のイメージルーム。
夏の夜空に花火が上り、縁日の賑わいが聞こえる中、屋台にレトロな手回しのかき氷機が据え付けられ、加藤四郎がねじり鉢巻で氷をかいていた。
「さあ、澪ちゃん。白くまだよ。」
こんもり盛られたかき氷にフルーツを彩りよくあしらい練乳をかけたものが、澪に手渡された。
「わーい、しろ兄ちゃん、ありがとう。」
「おい、加藤。俺には宇治金時を頼む。」
「俺には、ミルク金時、白玉つきだ。」
「了解。」

澪の姿を探してやってきた真田の目にうつったのは、澪を中心にかき氷の屋台に群がる訓練生たちの姿。これが氷の講義か…。
「あ、真田さん。真田さんは何がいいですか?」
「赤福氷を頼む。」
何か違うと思いつつ、澪と訓練生たちのうれしそうな笑顔に、ついつい注文をしてしまった真田。

今日も平和なイカルスであった。

匙なめて童たのしも夏氷
(山口誓子)



20 Dec. 2008

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