二字No. 04白夜

 

地球でいうと、白夜ってところだな。

南部は当直の第一艦橋で、パネルに映し出される地上の光景を眺めていた。草原が広がりところどころに灌木が茂る地表は、薄明かりに照らされている。昼間とは違う、と言っても夕暮れの光とも違う不思議な光の中に、しんとした景色が映し出されている。

そういえば地球で白夜を見たことがあったな。あれはいつのことだったか。ガミラスの前のことだからもう10年以上前のことだ。俺はまだ10歳かそこらの時、なんで行ったのかは忘れてしまったが、サンクト・ペテルブルグに行ったことがある。そこで白夜というものを見た。あの街はきれいだった。かなり復興が進んで元の街の姿を取り戻しつつあると聞いているけど、そもそも以前の街ときたら、よくもまあ昔の街並みがそのまま残っているもんだと呆れるほど。大昔の華やかな時代をそのままそっくり残すことに情熱を傾けていたのかと首を傾げたくなるほどだった。近代的に整備された東京の街並みに慣れた目にはとても絢爛豪華で、でもどことなく重苦しくもあり。そして街の中心に程近い運河沿いにあったあの教会。あの色彩と装飾の華やかな教会をみた時、この街がヨーロッパであってヨーロッパでないことを納得した。そして白夜の時間になると…。昼でもなく夕暮れ時でもない不思議な光の中に、浮かび上がってくる鮮やかな姿。

「何、ぼんやりしてるんですか。南部さんらしくもない感傷的な顔して。」
振り返ると相原が人の悪い笑いを浮かべて立っていた。当直の交代時間だ。
「たまにはそういうこともありますよ。きれいな白夜じゃないですか。」

南部はパネルを示した。
「え、白夜ですって。あんなものきれいだなんて。とんでもないですよ。前に北支部の手伝いに行って…」
北支部の通信ネットワーク構築の支援に行って、極地地帯で野宿に近い数日間を過ごしたことがある。1日中太陽が沈まなくて、夜になっても(夜がないけど)眠れやしない。おまけに北支部の連中ときたら、明るいものだから張り切って連日の酒盛り。
「おかげで僕は寝不足とアルコールのせいで、病気になりそうでしたよ。夜はちゃんと暗くなって、きちんと寝るのがいいんです。」
「やれやれ、健全な青少年の相原君には負けますよ。じゃ、部屋に帰って寝るとしますか。」

艦橋を後にした南部は、らしくもない思い出に浸ってしまったと苦笑した。惑星探査の旅に出てこれでいくつめの星だろう。ちょっと疲れているのかもしれない。白夜に浮かび上がって見えたあの教会は、今はまだ再建されていない。でも今夜は、あの不思議な光の中に浮かび上がってくる姿を夢に見ることにしましょうか。

    3 May 2008


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