二字No. 24「躊躇

兵は拙速を貴ぶ。
孫子第二篇作戦「兵は拙速を聞くも、いまだ巧みの久しきを賭(み)ざるなり。」を出典とする。もともとは、戦争は多少の問題があろうとも素早く行うのがいい、完璧を目指す余り戦争を長期化させ、それでよかったという例はないという老子の思想。発展して、軍事においては、手段は稚拙であってもスピードを持ってすれば勝利すると解されるようになった。
臨機応変、状況即応と旨とする戦場指揮。素早い決断と行動が必要である。決断や行動を躊躇していると、勝機を逸し結局は戦いに敗れてしまう。

さて艦内の喫茶室で休憩中の南部と山本。コーヒーを片手に議論の最中である。
「しかしスピードが大事と言っても、あまりに『拙速』だったら元も子もないでしょう。そもそも勝てない。」
と、南部が言った。
「だが、緒戦を押さえなければ勝機はつかめないぞ。それにはスピードだ。」
と山本。艦載機隊副官、飛んでいく時は一直線である。
「ということは、山本さんは作戦そのものの巧拙よりもスピードが重要だと考えているわけですね。」
「作戦を成功させるにはタイミングが重要だろう。いくら万全の作戦を立ててもタイミングを逸したら、何にもならんだろう。」

「うーん、結局、指揮官がどこで決断するかということになりますね。」
2杯目のコーヒーを淹れながら南部が言った。
「そうだ。決断と躊躇の分岐点がどこにあるかってことだろう。それはもう、指揮官の資質ということになるだろうな。」
山本が答える。
「結局、『善は急げ』って思い切れるかどうかってことになりますね。」
南部が笑った。
「まあな。その時点で立てた作戦がどんなものであっても、『善』と信じて躊躇を捨てられるかどうかだな。」
と山本。
「でも、『急がば回れ』というのも、必要な資質だと思いませんか。」
「作戦の成功率を図れるかという点で重要だな。」
「僕は『善は急げ』よりは『急がば回れ』を推したいですね。いずれにしてもバランスの問題ですけどね。」
「艦載機隊は、どちらかというと『善は急げ』な奴のほうが多いかもな。」

「お、うまそうだな。俺にも一杯くれ。」
そこに加藤三郎がひょいと顔を出した。
「何かマジに話しあってみたいだけど、何だ?」
「いえね、指揮官の資質で重要なのはどっちかって話になったんですよ。」
南部がコーヒーを差し出しながら説明した。加藤は湯気の立つコーヒーを旨そうに飲みながら、耳を傾けていたが、おもむろに言った。
「もうひとつあるぞ。『当たって砕けよ』だ。」

指揮官に躊躇は不要。成功か失敗かわからないが、当たって砕けよ、とにかく決行しなければならないこともある。

1 Jun. 2008

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