二字No.42背中

 

山本明。艦載機隊副官。
甘いマスクにクールな立ち居振る舞い。その飛びは天才的。まるで飛ぶために生まれてきたようなと評される男。出撃に際しては勇猛果敢。副官として艦載機隊の面々が寄せる信頼は厚い。
そして加藤隊長をして、安心して背中を任せられる奴と言わしめる男である。

さて、艦の乗組員にとって体調管理は重要な義務である。艦載機隊員たちにとっても同様である。いつ出撃ということになっても万全の体調で臨めるように、日常から鍛錬と調整は欠かせない。それは加藤とて例外ではない。いやむしろ隊長として全機を預かる身であるからこそ、他の者にも増して厳しく自己管理を行う。

その日も、隊員たちがそれぞれのメニューに従ってトレーニングを行う中に混じり、加藤も黙々とメニューをこなしていた。と言いたいところだが、この隊長、自分のトレーニングを行いつつ、周囲への目配りを忘れない。
「おい、そこのお前、姿勢が悪い。」
「あ〜、そんなやり方じゃ駄目だ、駄目だ。もう1回やり直し。」
「終わったらすぐ汗をふけ。」
まことに煩いことこの上ない。隊員たちは気の休まる暇がない。

「おい、加藤。ちっとは落ち着け。」
近くで筋トレをしていた山本が声をかけた。
「山本、重心のバランスが悪い。もうちょっと右だ。」
加藤はすかさずチェックを入れる。
「はい、はい」
おのれの愚を悟った山本。

トレーニングを終えた加藤と山本。シャワーで汗を流し、しばしの休憩。
「そういえば、しばらくやってなかったよな。」
ふと思いついたように山本。
「おお、頼む。」
加藤はベンチにうつぶせに寝転んだ。

「どうだ、効くかあ?」
「おお…。お前、指の力が強いから、気持ちいいぞぉぉ」
痛気持ちいいというような声で加藤が応える。
「しっかしお前、大分、凝ってるぜ。」
「ううう、もうちょっと上、肩甲骨のあたりを頼む。」
「鍛えるばっかりじゃなくて、適度にストレッチもしないと良くないぜ。」
山本は丹念に加藤の背中をほぐしていく。

豪放磊落に見えて案外、苦労性だと山本は加藤を理解している。クセのある隊員ばかりで心配の種も尽きないから仕方ないともいえるが、気苦労を溜め込んで、いつも背中をガチガチに凝らせている。だから背中揉んでやるのも副官の務め、とは口に出さない山本であった。


山本明。艦載機隊副官。隊長の背中を預かる男。

18 May 2008

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