連理の比翼


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2006題−No.18 「連理の比翼」

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ハートライン

 事の起こりは、義妹いもうとだった。

 「え、何て言ったのっ!?」
「だ・か・ら。結婚式しよ? お姉さん、って」
「けけけけ、結婚式? どこの、誰が」
「だから、お姉さんと、お義兄さんよぉ」
「なに〜っ!」
 食べ物を喉につまらせそうになって、慌てて水を所望した佐々葉子である。

 結婚なんてしないって言ってるだろ。前からその約束で、勝手に傍にいるのは
あっちの方だ。だいたい、2人とも勤務バラバラなんだし。家庭なんて、作れば
崩壊するに決まってるんだから。今のままの方が、合理的だし、現実的だって。
――理路整然と……に聞こえるように、前に言った話を義理の妹と弟の前で繰
り返す葉子である。
アクエリアス艦隊が地球へ寄航し、 寒河江さがえの家を訪ねてきた葉子だ。(国枝)彩
香も火星基地を退職してずいぶんになる。もともと興味のあったというファッション
関係の勉強をしながら、店の一つを手伝ううちに、そういうことになり、寒河江と
彩香の結婚式まで半年と迫っていた。彩香はその近くにマンションを借りていて、
日ごろはほとんどもう寒河江の家(とても広いので)で過ごしている。
 「あ〜っ。お前ら、私たちにモニタやらそうって魂胆だろうっ」
起業家である寒河江の仕事は多岐に亘っていたが、中でもプロデュースは基幹
産業で、本人も得意とした。全地球的に(一部宇宙にも)放送された“ヤマトの伝
説・古代進とユキの結婚”で、地球の結婚ブームに火がつき、その中で独自のノ
ウハウを組み立ててきたこともある。自分たちの結婚式は、立場上政治・経済的
な色合いが濃くなるため、普通の結婚式というわけにはいかない。入念に準備を
し、日程を調整して――ほとんどお仕事の場になりそうなのは必然として、姉たち
にはせめて手作りの幸せを、というのも2人の正直な気持ちだった。……たとえ
姉自身が、“結婚”などする気はないとはいっても。
「いいじゃない、お式だけよ? 世間には籍入れたり同居しなくても結婚式を挙げ
るカップルはいっぱいいるわ」
 それは、女の子が一生に一度“華であり主役”になることのできる日だ。普通の
若い女性には乙女の夢だろうが、もう主役なんてこりごり、ひと目に立ちたくないと
心底思っているのに女士官で、ヤマトの英雄、天翔ける戦女神、など呼ばれてし
まって伝説を幾つも引っ張っている佐々は、それでなくても目立つ自分を何とかし
たいと思っているほどだ。
(私は一戦闘機乗りで、宇宙の中で静かに飛んでられりゃーそれでいい)
と、真剣に思ってはいても、どこへ行っても目立ってしまう。生来の容姿もあるし、
年齢的にも、おまけに恋人との仲も熱々で充実しているとなれば、最近の女っぷ
りが上がって注目を集めてしまっても仕方ないだろう。
現に、防衛軍内に、佐々の密かなファンクラブがある。なぜ“密かな”のかといえ
ば、本人に知れれば叩き潰されるのがオチで、そのくらいはファンをしている相
手のことをわかっているのが周りの人間である(。ちなみに、古代進がこっそり
森ユキ経由で囁かれて、その“名誉会長”に就いているのはこれまた葉子や四
郎には内緒である)。
 戦闘機隊の若者たちを中心に、オジサンたちにもけっこう好かれるのはその
天然さ故だろうか、果ては女性たちにも――特に下士官たる女性たちの間で、そ
の凛々しさが人気なのは仕方ないといえた。戦闘機隊を中心にそれがあるのは
四郎も知っていたが、さすがに彼に直接情報を流すようなヤツはいない。四郎も
それに目くじら立てるほど大人気なくはなかったが、会長が(押し上げられて)酒
井亮輔なのは思いっきり気に入らなかったので、距離を置いている。もちろん、
佐々自身に漏らしはしないのは四郎にも武士の情けというものがあったからだ。
(ちなみに、別の話だが加藤四郎にもちゃんとファンクラブがある。熱烈な)

 「いやだよ、お前たちの結婚式には盛大にお祝いでもなんでもやってやるから、
勘弁してくれ」
「え〜、でも…」
妹には思いっきり弱い佐々である。押され気味で、しかも義弟の寒河江は、説得
と営業のプロ。その物柔らかで心地よい慇懃さに触れると、なんとなくYesと言っ
てしまいそうになるから警戒しなければならない。
「――だって。今さら四郎にそんなこと言えないじゃ、ない…」
だいぶ返答の内容が変わってきたことに気づかない葉子。
 しめしめ、と内心思いながら2人してもう一息だなと考えている寒河江と彩香
だった。

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