連理の比翼


(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10)


= 2 =
 「それで、受けちゃったの?」
呆れた、という表情で葉子は言った。
テラポートまで(四郎に)出迎えられて、そのまま(葉子の)官舎に戻り、風通し
して掃除して料理まで作ってある(自分の)家に戻ってきて、ほっとしてキスして
抱き合って……の後である。
 毎度の帰還のセレモニー……たっぷりと張った湯にのんびりとバスに浸かっ
た。何故か執事よろしく上げ膳据え膳に準備してくれた四郎が用意してくれたつ
まみ持ち込んで一杯やりながら風呂の中、などという不届きなことまでしている
葉子さん。あんた贅沢よ、ちょっと。と言われそうな時間である。
まぁ風呂から上がってくれば上がってきたで、そのまま待ってた人に“いただき
ます”されちゃうのは必然で――そう思えば多少の労働奉仕はまぁ……お互い
様というか、勝手にやってくれ、の世界である。
 手足も伸ばしてこの世の春、ではないが、気持ちよく寝室の中。その恋人の
腕の中で彼の顔を見上げての、葉子さんであった。
「――俺が勝手に返事できないでしょ? 貴女がうん、ていうわけないと思った
し」
ちゅ、とキスしたりなんかしながら、困った顔してそう言う。
諦めたふりをしているが、別に結婚しなくても――このひとの花嫁姿は綺麗だろ
うなぁ、それも自分のために装ってくれたりなんかしたら、ガラスケースに入れて
飾っておきたくなっちゃうかもしれない、なんて思いながら。
ところが、一言のもとにはねつけるかと思われた彼女が、
ふうん……
と言って肘をつき、ベッドに伏した。
え? もしかして――可能性、あるのかな?
ちょっと期待してしまう四郎である。

 「あのねー」うんうん?
「結婚する気がないのは、知ってるよね?」はいはい。
「――理由も、わかっててくれるでしょ」あぁわかっているとも。
「でもね。式くらいなら、いい、……かなぁ…なんて」えぇっ!!
 がば、と跳ね起きて、思わず顔覗き込んでしまった四郎である。
どうしちゃったんだよ、いったい。
 また突然、異星人が攻めてきたりしないだろうな、と思わず警戒してしまった四
郎だ。

 葉子にしてみても、寒河江と彩香の強引な采配がなければ、そこまで考えはし
ない。
妹夫妻(予定)を喜ばせてやりたかったし、確かに四郎の言うように、月基地の
“総司令”ともなれば――最初は司令職だろうと思っていたがまさかいきなり
“総” 司令が降ってくるとは思わなかった。これは、仲間内では年齢からすれば
異例の出世である。真田の科学技術省副長官にも匹敵する――これも時間が
経てばそのまま“長官”といわれていたが。
 1日恥かけばいいだけ――それに。
 そんなに派手にする必要ないもん――たかが1士官同士のお式。仲間招んで、
ご馳走食べて、ちょっとお化粧したり衣装着て、それでもってあの娘たちのオー
ダー聞いてやって…。それに。そうね――月基地の人たちに言っておくのも良い
かもしれない。
だって……やっぱり、ちょっとは不安。戦艦乗って飛んでいってるなら仕方ないけ
ど、月にずっと居るんだし。私、其処に帰ってっていいのかな?

 とまぁ。葉子さんには珍しい思考回路になっているわけである。
――そこを逃すような戦闘機隊長ではなかった。

ハートアイコン

 なぜかトントン、と話は決まり、もちろん周到に用意された大パーティなんてこ
とにはならないように気を遣ったが、それでも、“呼びたい親しい仲間”という人
間たちが、どういう人たちだ、ということを2人とも失念している。
 それぞれが一大ネットワークを持つ重鎮ばかり……友人といったって、軍中・宇
宙いっぱいに拡がっているのだ。・・・招待者リストを作ろうと思っただけで頭痛が
してきた。
 それと、加藤の一族、また寒河江の一族がいる。それぞれが拡がりまくってお
り、自分自身あまり家族という感覚のなかった葉子は、それだけでもおじけづい
た。
――ふわぁ、大変。やっぱやめようかなぁ――。
だが、愛する四郎の仕事上の都合となれば、そうもいっていられない。
それと、問題はもう一つ。

 「え〜。ダメよ! 四郎さんと葉子さんの結婚式に、私たちが何もできないなん
てこと許されないわっ!」
――どこから聞きつけたか、ごくスタートしたばかりの頃に南部美樹に急襲された
四郎である。南部美樹は現在、“修行”で出ていたAGEHA系列の会社を退職し、
NAMBUコングロマリットの企画室にいる。――寒河江ですって? あそこだけに
任せるなんて許せないっ。
 ちょっと待て――南部に寒河江だって? 冗談じゃないぞ…。
 もうっ! 冗談じゃないわよこっちこそ。地味にやるの! 簡単でいいんだから。

 「そういうわけにはいきませんよね…」
いつの間にか相原と南部が乗り出してきたのは必然だっただろう。
特に相原は、報復攻撃という気分でいる。もう大変だったんだから――なのは、
結婚した相手が相手だったんだから仕方ないだろうという気もするが。
「だめですよ、ヤマト戦闘機隊の英雄お2人の結婚式なんて。地味になんかでき
るわけないじゃないですか」
「だけど」――なんで防衛軍の執務室でこんな話してなきゃなんないんだ、と思い
ながら、これはあくまで四郎の仕事のためであって、本当に結婚するわけじゃある
まいし…。
「本当も、嘘も、結婚式は結婚式ですって」南部が笑いながらそう言い、「佐々さ
んは女性の夢も負ってるんですからね、そのへん自覚して、いっそ軍の広告塔に
なってもらうかな」
「南部ぅ――」情けない顔になって、葉子ちゃん、泣きそう。南部のことだから、本
当にやりかねないからな……。
「そんなこと言うと、全部軍服で通してやるぞっ」葉子も負けてないが……劣勢な
のは否めなかった。

背景 by Kigen 様 sozai site

Copyright cNeumond,2005-08./made by Satsuki ICHINOSE, written by Ayano FUJIWARA All rights reserved.


←扉へ戻る  ↑前へ  ↓次へ   →「日々徒然」TOPへ
inserted by FC2 system