連理の比翼


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= 7 =

 「さてここで皆さま、祝辞をいただきます」
音楽が途切れ、相原義一の声が響いた。
この祝辞を全部述べていたらそれだけで宴会が終わってしまう。そう思った仕掛け
人たち――南部兄妹、相原、寒河江と彩香は、その場にふさわしいものを幾つか
抜粋することと、その他は名前を読み上げるだけに留めた。古代とユキの時は、
軍の広報に期間限定ページを設けて情報発信までしたのだが、さすがにそこまで
することはないだろう。
古代進と森ユキが軍の広告塔であることは確かな事実で、それはヤマトの贖罪と
いう意味も含め古代自身もある程度(本心は、彼の性格からして最も忌むべきこと
ではあり、イヤイヤながらに違いないけれども)了解している。ユキも同様――そ
ういうことを除けば、華やかでありながらも、こんなに地道に暮らしている夫婦も
ないだろうと思うのだけれども。

 長官の祝辞をはじめ(さすがに此処には来ていなかった)、現在は訓練学校長
になっている元の月基地司令・片岡からは2人への温かいメッセージがあり、遠く
は銀河系辺境の出張所から、第11番惑星の駐屯地、また佐々の同僚たちが勤め
る各基地など、どうしても軍関係が多い。退役したため、戦後まで消息の知れな
かった者たちからのメッセージも届いており、葉子も四郎も懐かしくそれを聞いた。
葉子の親友たちは多忙で非常に悔しがりながらも来場できていない。神崎恵美は
新環境のテラフォーミングの研究に借り出され他惑星へ出張中だったし、山吹佐
知香も建築予定の火星コロニーのプロジェクトに囲い込まれていて来場できな
かった。
佐知香は四郎にとっても葉子にとっても家族のようなものなので、ぜひ来てほし
かったのだが、そういうわけにもいかないのだろう。
「なんだか、女性陣の方が忙しいのよね――」
ユキにそう言ったように、確かに男の同期たちはけっこう顔を揃えていたりも する。
……とはいえ、生き残り自体が本当に少ない、それを実感する場ともなってし
まった。

 そして、恒例、相原と南部編集によるプライヴェートOV映画の上演。
毎度のことながら、「相原、お前、職替えした方がいいぞ」というお褒めの言葉が
あちこちから出る感動長編30分で、もちろん、古代たちの結婚に使われていた部
分がかなり重複して使われている。イスカンダルまでの往復には山本と加藤三郎
の姿が共にあり、やはり涙を誘う。そして、わかれわかれになった白色彗星以降
からデザリウム戦にかけての映像は、貴重な資料をつなぎ合わせたドキュメンタ
リーでもあり、四郎も葉子も、互いが知らなかった絵を見て感動するという場面も
あった。
(サーシャちゃん?)
(澪!?)・・・イカルスの映像は、真田が提供したものだ。訓練学校時代の四郎の様
子に、溝田たち一行は懐かしがり、また山口や澪の姿に涙する者も居た。
「へぇ、司令のお若い頃ってカワイイっすねぇ」小此木が言って、「ばかやろ」とい
われ、「今でもカワイイぞ、加藤は」と溝田に突っ込まれ、「うるっさいよ」と顔を赤
くする加藤司令。
 いつしか手をしっかり握り合うようにしてその映像に見入っていたのは、ヤマト
の最後の戦いが写ったからだ。会場のあちこちからすすり泣きが聞こえ、それが
ざわざわと拡がっていった。軍用の記録映像による戦闘シーンはさすがに僅か
だったが、2人がCTに乗って飛び出し戦闘する場面も僅かながらあり、よくこんな
ものが残っていたものだと感心する。相原のネットワークも凄いというべきか、南
部の手柄か。
その艦内でのプライベートなショットも案外に残っており、食堂で談笑する姿や、
パーティの様子はまた別の涙を誘った。
 (古代――)
暗い中でわかりにくいが、古代とユキをはじめ皆がどんな気持ちでそれに見入って
るかわかるような気のする2人である。それでも、また遭えた…見ることができる
のは幸いというか。 デザリウム戦以外は常に共に戦った古代&ユキと異なり、時
代がずれていることもあり、案外に佐々と加藤の共にあったのは多くない。それだ
けに現れる映像は互いにとって新鮮で、画面を見て泣き笑いをしながらも、顔を見
合わせ、その貴重な映像は2人にとっても宝になるはずだった(プライヴェートDV
Dとして主役の2人に贈呈されるのも毎度のことである)。

ハートアイコン

 上映は短く終え、古代たちの時はここでサプライズのメッセージが二つ続いた
(島の遺言や古代守の在りし日のメッセージが読まれ、またガルマン=ガミラス総
統・デスラーからの祝辞が流された)のだったが、さすがにあんなドラマチックな
演出は無いだろう。
2人の希望で、月基地をベースにする軍楽隊の演奏が華々しく行なわれ、2人は
テーブル回りを続ける。
 特に何というイベントがあるわけでもなかった。
めったに逢えない者同士の再会という意味もあれば、この際にいろいろコネクショ
ンを漬けておこうという思惑もある。特に、宇宙のあちこちに散って仕事をしてい
る旧知のメンバーが集うテーブルでは、「生きててよかったなぁ、どうしてる?」
というような会話があちこちで交わされ、平和になったとはいえまだ太陽系の植民
地化は完全ではないことを思わせる。いわばその尖兵たちの年代なのだ。
 「楽しんでるか?」
飛行隊の二つ目のテーブルに近づいて、加藤が言うと、「あ、司令。…今、先輩た
ちにいろいろお聞きしてた処なんですよ」と、加藤の配下に入ることになる月基地
のメンバーの一人がワインのグラスを上げながら言った。小此木たち3人組は、ヤ
マトの最後の戦闘機隊員だ。やんちゃで手を焼かせた3人組だが、すっかり場慣
れし、風格も落ち着きも出てきた。佐々にとっては最も最近の教え子にもなる。
「――また、くだらないこと吹き込んでたんだろ?」笑いながら佐々が小此木に言
うと
「めっそうもありませんよぉ。お2人がどれだけ“凄い”かって話っす」「そうそう」
「あまり吹聴するなよ――あとで苦労するのは俺なんだからな」と四郎が言って、
楽しそうな笑い声が満ちた。すでに10日ほど前から準備のため基地入りしている
四郎である。若さに見合わぬ硬派で、一見柔らかそうな当たりのわりに、清冽な雰
囲気を持つ上官という印象があった。……今日はそれが23歳という年相応に見え
る。それに。
 「伝説の女戦士――佐々大尉が、こ〜んなおキレイな方だったなんて…ショック
です」
酒飲んでのせいなのかどうなのか、顔を真赤にした大柄な一人がそう言って、「オ
イ、お前抜け駆け」「やめろって。似合わねーぞ」とどやされたりこづかれたりする。
その様子をクス、と笑った佐々は。「よろしくお願いします」少し目を伏せて言う様
子は、淡い光の中、儚げに美しいとさえいえて、(本当にこの人が、ヤマトのあの、
佐々か!?)と疑う気持ちになるほど、彼女はしっとりとそこに立っていたのだった。
それはよく彼女を知る者たちもドギマギするほどに。

 祝辞は大変数多く贈られたが、南部と相原の絶妙なチョイスにより披露された。
昔馴染み、同期や後輩たち、以前の上官。そして此処へは駆けつけて来られない
ヤマトの仲間たち、辺境の惑星・衛星で任務に就いている者――。
そのエリアの広さを考えるのに、この結婚式が、あらゆるところまで情報として拡
がっていることを改めて知らしめた。
(まったくもぅ――どうしろってのよ)
にこやかに微笑みながらも、内心毒づくではないが情けない気分にもなる葉子は、
(あとの方が大変だ)とこっそりため息をつく。だがその微妙な様子を察知した四
郎が見ているのに気づくと、申し訳ないような気持ちになり、(気にしないで)と
微笑み返した。
「ごめんね、僕の我侭で――君には大仰で大変だ」肩を抱くように傍にいた彼が耳
元に口を寄せて囁くようにそう言うのに、ううん、と首を振った。
「――私も納得してのことだから、いいんだ。気を遣わせてごめん、ありがと」
「…あぁ、ならいいんだ。それに、本当に、キレイだよ」
明かりが間接照明の微かなものだというのを良いことに、そのまま頬にちゅ、とキ
スをする四郎。いくら暗いとはいえ、主役2人には誰かしら注目しているものだ。
その様子を見、ぽぉと微かに頬を赤らめた佐々の様子を見て、
(うう、ちくしょー)(キレイすぎですって、佐々さん)
ほぞをかんだ男どもも、
(素敵〜♪)(いいなぁ、ラブラブで)
と興奮した女どももたくさん居たのであった。

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